設計例
F.T.Pile構法の設計例をご紹介いたします。
1. 適用事例
1.1 建物概要
・ | 用途 | : | 倉庫(営業用) |
・ | 所在地 | : | 東京都大田区 |
・ | 階数 | : | 地上7階・塔屋1階 |
・ | 建築面積 | : | 14,222m2 |
・ | 延べ面積 | : | 97,163m2 |
・ | 軒高 | : | 49.00m |
・ | 最高高さ | : | 50.50m |
・ | 構造種別 | : | 鉄骨鉄筋コンクリート造(柱SRC+梁S,ラーメン構造) |
1.2 地盤概要
当敷地は東京湾周辺に存在する、埋立後30年以上経過した埋立地である。地盤の土層構成模式図を図-1に示す。N値50以上が連続する支持層は、GL-31.5~-32.8 mより出現する東京層の細砂層(To-s2)以深である。
図-1 土層構成模式図
1.3 基礎計画概要
本建物は、埋立地の軟弱地盤であることより杭基礎とした。支持層はGL-31.5m以深に分布するN値50以上の細砂層とし、杭先端はGL-35.6~-36.6mとして十分根入長さを確保した。
杭配置は、原則各柱下に1本配置し、止むを得ない場合のみ複数本打ちとした。各基礎は杭頭曲げモーメント等の処理のため、必ず2方向に基礎梁で連結した。基礎伏図を図-2に示す。
建物用本杭の荷重負担の軽減を図るために、1階床構造として、直下の地盤に荷重を直接負担させる土間床形式を採用した。また、床の沈下を抑制することを目的として、土間床直下に中間層のGL-15.5mを先端とした沈下抑止杭(ソイルセメントコラム:φ1000)を1グリッドあたり4本づつ総計242本を配した。
GL-4~-6mの細砂層で一部、地盤の液状化の可能性があるが、杭の耐力で抵抗することととし、杭の水平抵抗の検討時に、この地層の水平地盤反力低減係数0.1を考慮して検証している。
図-2 基礎伏図
1.4 杭の概要
各柱下の長期杭用反力はおおよそmin3800~max12600 kNとばらついている。これに対して、1柱1本の杭を原則とし、コスト及び工期の比較検討を行い、高支持力杭工法の中から外殻鋼管付きコンクリート杭(SC杭)先端拡大根固め認定工法を採用した。このSC杭に対して、F.T.Pile構法を採用した。
2. F.T.Pile構法の設計フロー
2.1 グルーピング
F.T.Pile構法は、杭頭接合部の回転剛性が軸力に依存する特徴を有するために、地震時変動軸力レベルに対応した杭のグルーピングを行う。本例では、長期時杭反力に基いて選定した杭径や杭外殻鋼管厚の異なる6種の杭に対し、各々を押込み側(最大反力)と引抜き側(最小反力)に分け、総12グループの杭群として扱った。
2.2 荷重の分配
本建物の1階床は、不連続な基礎梁を持つ土間床を基本としている。全体平面の剛床仮定は成立しにくいため、同一レベルで連続している土間床及び基礎梁によって構成される各々の範囲の1階柱負担せん断力分布と杭剛性に応じて、各杭に水平荷重を分配した。
2.3 杭頭のM-θ関係
F.T.Pile構法では、杭頭の曲げモーメント~回転角関係(M-θ関係)を、初期剛性K0と最大抵抗曲げモーメントMmaxを有する双曲線関数(H-Dモデル)でモデル化する。初期回転剛性は弾性理論より求め、最大抵抗モーメントは、軸力Nと杭径Dから求まる最大偏心モーメント(ND/2)とする。図-3に示すように、H-Dモデルは実杭を用いた構造実験結果を良く再現していることが分かる。
図-3 曲げモーメント-回転角関係
2.4 固定度・杭頭回転バネの設定
多層地盤を想定した予備解析に基づく等価な地盤係数、各杭グループの杭剛性・軸力レベル、及び上記のM-θ関係を用いて、杭頭の固定度及び等価杭頭回転バネKθを算出する。地盤や杭頭・杭体の非線形性を逐次反映させた増分解析による精算法もあるが、本例では等価線形による簡便な方法を用いた。固定度や杭頭回転バネは、H-DモデルによるM-θ関係に基づき、収束計算によって求められる。
2.5 杭の応力解析と断面検証
図-4に解析モデルを示す。梁要素による杭と、上記で求めた等価杭頭回転バネ、及び液状化や地盤の非線形化を考慮した地盤水平バネを設定した解析モデルによって杭の応力を算定する。杭のM-N相関曲線を用い、杭頭及び地中部の曲げ応力に対し杭耐力の検証を行う(図-6)。
図-6 杭の断面検証
図-4 解析モデル
また、杭頭回転角θが許容値(0.02rad=1/50)以内であることを確認する。
杭頭部で伝達される水平せん断力に対しては、基礎コンクリートの縁あき部分のせん断応力度が短期許容せん断力以内であることを確認する。
3. 半剛接合による杭頭固定度
本例による検討結果、及び杭頭を固定とした場合との比較を図-5、表-1に示す。杭頭を半剛接合にすることにより、杭頭の曲げ応力は杭頭剛接合と比較して約20~40%低減されている。即ち、固定度は概ね0.6~0.8となった。この結果、SC杭の上杭の鋼管厚さ及び基礎梁の軽減が可能となっている。
一方で地中部の最大曲げ応力は約60%程度増加するが、最大応力が生じる深さは杭頭剛接合と比較して浅くなり、むしろバランスのよい傾向となる。
図-5 杭の曲げモーメント分布
表-1 検討結果と杭頭剛接合の場合との比較
4. F.T.Pile構法の施工状況
F.T.Pile構法の施工は、通常の既製コンクリート杭の基礎工事と同様に杭頭レベルの掘削・整地が完了した後、杭頭部にテーパー型枠を設置する。その後に捨てコン、基礎配筋、コンクリート打設となる。杭頭処理(補強筋等)が省略されるため、杭頭と基礎梁部の納まりが簡素になり、耐震性の向上のみならず、工期・コスト上のメリットもあった。
写真-1 施工状況例
5. おわりに
現在、杭頭半剛接合または杭頭をピンとする多くの工法が実用化されている。今回紹介したF.T.Pile構法は、杭頭部に特殊な装置を必要としない極めて簡便な杭頭接合法である。杭頭・地中応力をバランスよい性状として耐震性を向上させると共に、杭・基礎躯体の合理化も図れる。今後、より多くの杭基礎に適用されることを期待する。
■参考文献
基礎工 2007年2月号 pp.57~59